はじめに
現代社会では、多くの方が職場でのストレスやプレッシャーに直面しています。新しい業務に適応できない、職場の人間関係に悩んでいる…そういった問題は誰にでも起こりうるものです。このような状況が長期化すると、適応障害やうつ病などのメンタルヘルスの問題を引き起こすことがあります。当院では、職場環境の調整や、休職・復職など、職場の不適応に対する支援を行っています。
職場での不適応の要因
職場で不適応を起こす原因は様々ですが、職場の要因と個人の要因と大きく分類することができます。さらに細かく分類できますが、実際には、複数の要因が絡み合って不適応が生じていると考えられます。架空の症例でご紹介します。
職場の要因 | 個人の要因 |
長時間労働 業務のアンマッチ | 対人関係の問題思考のかたより 健康状態の悪化 | 性格
対人関係
30代の女性であるAさんは、新しいプロジェクトのリーダーに抜擢されました。しかし、プロジェクトチームのメンバーとの意思疎通がうまくいかず、特に一人の年上の同僚がAさんの指示に従わず、批判的な態度を取ることが増えました。Aさんは、その同僚との衝突に対して強いストレスを感じるようになり、次第に他のチームメンバーとのコミュニケーションにも消極的になっていきました。結果として、会議の進行やプロジェクトの管理に自信を失い、不安感や気分の落ち込みが強くなり、夜も眠れなくなりました。
長時間労働
20代後半のBさんは、IT企業でプログラマーとして働いています。最近、急激なプロジェクトの増加により、毎日のように深夜残業が続き、休日出勤もしばしば求められる状況が続いていました。Bさんは元々タフな性格でしたが、体調が悪化し、慢性的な疲労感に加えて、日々の仕事に対するやる気が急速に失われていきました。最終的には、仕事への集中力が著しく低下し、些細なミスが増えてしまうようになりました。
業務のアンマッチ
40代のCさんは、長年営業職に従事していましたが、最近管理職としての役割を与えられ、部署の運営やスタッフのマネジメントも任されることになりました。Cさんは、自分にはリーダーシップや管理能力が足りないと感じ、新しい役割に対して強い不安を抱くようになりました。部下とのやり取りがストレスとなり、責任感の重さから仕事に集中できなくなってしまいました。その結果、パフォーマンスが低下し、評価も下がってしまうのではないかというプレッシャーがさらに精神的な負担となりました。
症状
不適応を起こすと様々な症状が引き起こされます。一つでも該当する症状があり、日常生活や仕事に支障をきたしている場合には受診をご検討ください。
感情に関する症状
気分の落ち込み、趣味や娯楽を楽しめない
不安感、悲哀感、イライラ感
常に落ち着かない、動作が遅くなる
身体に関する症状
不眠や過眠、食欲や体重の変化
疲労感や易疲労感、パニック発作
身体の痛み、性欲減退、気力の減退
認知機能に関する症状
不適切な罪責感、無価値観、自殺念慮
思考力・集中力の減退
記憶力・注意力の低下、決断困難
休職までの流れ
医師の診察の結果、適応障害やうつ病などの精神疾患と診断され、その精神症状により、日常生活や仕事に支障をきたしていると判断された場合、休職を含めた環境調整が検討されます。
精神症状が軽度な場合、配置異動や残業制限など環境調整で、休職に至らずに症状が改善する場合があります。また、医師より休職を提案されたものの、休職を希望されない患者様もおられます。そのような場合、「精神科クリニックを受診し、⚪︎⚪︎と診断された」「医師より、残業制限や配置異動などの環境調整を提案されたが対応可能か」と患者様と職場での話し合いをお勧めしています。
医師が休職が必要と判断し、患者様も休職を了承している場合、就労不能の診断書を発行させていただきます。当院では、初診当日より診断書の発行が可能です。職場に休職の意向を伝え、休職の手続きを進めてください。
傷病手当金
休職中は、通常の給与が支給されなくなる場合が多いですが、傷病手当金という制度が利用できることがあります。傷病手当金は、病気や怪我で働けなくなった場合に支給されるもので、最長で1年6ヶ月間、1日あたり標準報酬日額の3分の2が支給されます。支給開始には3日間の待機期間があり、4日目から支給が始まります。
傷病手当金を受給するためには、傷病手当金申請書を作成し、職場を通じて健康保険組合に提出します。申請から支給までには通常1ヶ月程度かかることが多いため、早めに手続きを進めることが重要です。医療機関で記入が必要な部分もありますので、休職の診断を受けた医療機関に提出して証明を受ける必要があります。
復職までの流れ
自宅療養により症状が改善してきた場合、医師は次のような評価項目を元に、就労可能と判断すれば復職の診断書を作成します。必要に応じて、短時間勤務や残業の禁止、職場の異動等、就業上の配慮が望ましい旨を記載します。患者様は、診断書をに提出し、復職の手続きを進めます。
- 患者様が職場復帰に十分な意欲を示している
- 通勤時間帯に安全に通勤ができる
- 会社が設定した勤務日に勤務時間の就労が継続して可能である
- 業務に必要な作業をこなすことができる
- 作業等による疲労が翌日までに十分回復している
- 適切な睡眠覚醒リズムが整っている、かつ昼間の眠気がない
- 業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している
復職の診断書が提出されると、患者様と職場の担当者や産業医を交えて、復職に向けた面談が実施されます。そこでは、健康状態の評価や復職支援のための話し合いが行われ、最終的に事業者から復職可能かどうかの決定がなされます。
職場復帰後の労働負荷を軽減し、円滑な職場復帰をするために、短時間勤務や残業制限等の就業上の配慮がなされる場合もあります。復職後しばらくは、病状が再燃・再発しないか、勤務状況や業務遂行能力が問題ないかを、職場や主治医でフォローアップしていきます。
- 短時間勤務
- 軽作業や定型業務への従事
- 残業・深夜業務の禁止
- 出張制限(顧客との交渉・トラブル処理などの出張、宿泊をともなう出張などの制限)
- 交替勤務制限
- 業務制限(危険作業、運転業務、高所作業、窓口業務、苦情処理業務等の禁止又は免除)
- フレックスタイム制度の制限又は適用
- 転勤についての配慮
さいごに
以上、休職から復職までの一般的な流れですが、職場によっては産業医が不在であったり、復職後のフォローアップがない職場も一定数ございます。当院では、患者様が再び万全な状態で仕事に戻れるよう、支援しています。